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2021. 7

​Case3 婚礼箪笥  花台とベンチ

花台として生まれ変わり、嫁入り道具として作られた箪笥の面影はもうない。

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婚礼家具

​今では少なくなったのか、特に若い世代では知らない人もいるだろうか。1990年頃まで嫁入り道具として親が娘に家具一式を贈る風習があった。ひとつひとつが重厚で高級感のあるものが多い。今の箪笥では見られない、着物を入れる浅い抽斗が付いている。私の実家でも数十年着ていない母の着物が丁寧に仕舞われているのを思い出す。祝いの家具とあってか精巧な作りをしている。抽斗を押せば、上の抽斗が出てくるなんてこともある。しかし、それだけで材料の良さ、職人の技が詰まっているということがわかる。

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現在の価値

今日の住宅では、収納するといえば押し入れやクローゼットのように建物と一緒になっていることが多い。見た目もすっきりとし、生活感を出さない仕様が求められている。その中で2mを超えるような箪笥はどうしたものか。引っ越しと同時に処分を検討したり、誰かに譲ることを考える。しかし、手放すにも二束三文にしかならない。その理由として、1つ目は必要とする人が少ない。2つ目は素材の再利用化が難しい。手間こそかけらて作られている家具だが、構造がわかりにくい故に再加工が難しい。そして、手放せない理由はそれだけではないだろう。個人の思い、家族の思いは十分に詰まっているからこそ、この箪笥の価値はその人にしかわからない。他人が簡単に数値化するのは難しい。だからこそ、新しくして誰かに使ってもらえるならと、お引き取りの依頼を頂いた。

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イメージは…私のリメイク方法

扉を見たとき、綺麗な顔だなと思った。唐草の彫りが可憐で、鮮やかな赤い塗装も美しいと思った。きっと花を飾るような人の生活に寄り添うモノがいい。一目見て、そう決めた。それなら隣で腰を落ち着かせる物も必要だ。見た印象から全て頭の中で完結し、箪笥としての最後を見届けた。

​加工すると後戻りはできない。細心の注意を払いつつ切り分けていく。必要な補強を加えたり、穴を増やしたり、機械でできないところは、手工具で加工する。古い家具を新しくするときは、いつも元の家具を作った職人に手解きを受けているような気分になる。ここはこう作る、こう切る、こうする。厳しい声まで聞こえてきそうだ。家具をリメイクするということは、またひとつ学ばせてもらっているということと同義である。

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​表に継手を見せずに90度に継ぐ方法、“留形隠し蟻組み継ぎ”。見えないところだけれども、強度が必要なので手を抜けない。接着した後は継手は隠れるが、表の木目が繋がって見える。なので仕上がりはシンプルだ。

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雰囲気を生かす

元の扉が持つ愛らしさを生かした花台とベンチになった。(扉のリメイクのみの紹介になったが、中の抽斗なども今後別の用途で使われていく)深い赤色の木目とピンクがかったビーチ材の相性は良い。品の良い綺麗な仕上がりになった。窓際に置いて庭を見るもよし、玄関に花を飾り、靴の着脱に腰を下ろすもよし。誰かの思いが、誰かの愛着に繋がるようになれば幸いだ。

今回は左右の扉の片方は花台で、もう片方は抽斗付きベンチにリメイクしたが、花台をベッドサイドにひとつずつサイドテーブルとして置いても良いだろうし。新しいアイディアがあれば、また別の新しい家具になるだろう。可能性は無限にあり、人の生活、暮らしに彩りを与えられる。

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古い家具、思い出の詰まった家具を永く使いたい方へ。物を大切にする活動に tirami はご協力します。

 

 

平城侑樹

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